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岩田榮吉の作品

 作品点描
  カーテンとトロンプルイユ(その1)



岩田は、トロンプルイユと額縁の関係を様々に考察していますが(作品点描~額縁とトロンプルイユ 参照)、トロンプルイユを語るときに必ずと言っていい程引き合いに出される「ゼウクシスとパラシオス」の挿話では、カーテンが重要な鍵になっています。西洋絵画では作品を覆い隠すようにカーテンをかけることが、あるいは作品に額縁をつけるより以前から行われていたようです。

この挿話は、古代ローマの博物学者である大プリニウスの『博物誌』にあります。…古代ギリシアの画家ゼウクシスとパラシオスが作品の優劣を競うことになり、まずゼウクシスが葡萄の絵を除幕すると、葡萄を本物と思いこんだ鳥たちが飛来した。次にパラシオスが作品を示したが、カーテンで覆われたままであったので、ゼウクシスは除幕を促したが、それはカーテン自体を描いたものとわかり、負けを認めるに至った…というものです。

岩田なら、「パラシオスの絵は、当時のカーテンの常識に由来する思い込みを利用しただまし絵に過ぎなかったのではないか?」と言うかもしれませんが、とにかくカーテンと絵画の関係はさほどに古いのです。そして近年、ヴォルフガング・ケンプの著作『レンブラント《聖家族》』(加藤哲弘訳1992年三元社)で注目されるレンブラント《カーテンのある聖家族》では、カーテンと額縁が共に描き込まれトロンプルイユ風作品に仕立てられます。


レンブラント・ファン・レイン 《カーテンのある聖家族》 1646年 油彩/板 46.5×68.8cm ドイツ連邦共和国カッセル州立美術館蔵
レンブラント・ファン・レイン 《カーテンのある聖家族》 1646年
油彩/板 46.5×68.8cm ドイツ連邦共和国カッセル州立美術館蔵


レンブラントのこの作品においてカーテンには、絵画に掛ける実際の習慣、宗教画で神秘性を高める効果、トロンプルイユ効果という三重の意味あいが指摘されますが、あわせてカーテンの向こうに何があるか連想を喚起する効果を加えることができるでしょう。この効果を多用したのは、岩田が敬愛したフェルメールです。それでは、岩田はカーテンをどのように扱っているでしょうか。おもなものを挙げてみると以下のとおりです。


トロンプルイユ作品 その他の作品
20 赤いカーテン 3   自画像
65 マヌカン 56 道化師
86 箱 64 マルレーヌ
116 カーテンと地球儀 84 室内のマヌカン
番号は『岩田栄吉画集』の掲載番号


岩田の場合、「実際の習慣」や「神秘性を高める効果」はともかく、トロンプルイユ効果と連想喚起効果は大いに取り込んでいます。《赤いカーテン》のタイトルにもありますが、もっとも手前にあるカーテンは、多くの場合赤系(進出系)の色が使われ、遠近表現の一端をも担っています。


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