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岩田榮吉の人物と経歴

 人物点描
  タバコとコーヒーさえあれば


1968年のパリは、騒然としていました。学内の民主化要求に端を発した大学生中心のデモ活動に、ベトナム戦争やチェコの民主化運動(プラハの春)に対するソ連の軍事介入への抗議などから一般市民が加わり、これらに対するフランス政府の強硬な取締り、さらに学生・市民の反発…とエスカレート、やがてゼネストにまで発展した「五月革命」です。

パリ中の道路はゴミの山、モノ不足を懸念した市民が買いだめに走り回る中、単身で身軽とはいえさすがに岩田も不安を感じて「必需品」の調達に動いたようです。しかし岩田が調達したのはタバコとコーヒーだけだったとか。これさえあれば絵を描き続けられる…というつもりだったのでしょうか。遂に岩田を案じた友人がジャガイモを届けてくれたそうです。

画家も十人十色。美食で有名な画家もいれば、「食うや食わずの貧乏絵描き」も一つの典型になっています。美食画家としては、自らの挿絵入りで200点以上の料理を紹介した本まで著したロートレック、そして自宅の敷地内で野菜づくりを行い、鶏やブロシェ(カワカマス=大型の淡水魚)を飼い、キノコを採ってたくさんのレシピを残したモネが有名なところでしょう。

ロートレックやモネは別格としても、食にこだわりを持つお国柄ゆえ、ブーランジュリー(パン屋)やブーシュリー(肉屋)に行けば手頃な値段で質の良い総菜が一人分から買えるので、岩田のような単身生活者でも、季節のものを取入れ変化をつけしかもバランスの取れた食事ができる環境は整っています。しかしながら、夢中で描いているとついつい食事も忘れがち…な日常ではあったようです。


《コーヒー挽きの静物》 1978年
《コーヒー挽きの静物》 1978年


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