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岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描(20)
  《薔薇の貴婦人》


バラは古来、中東・西洋世界で尊重され愛好されてきた花です。ヴィーナスの花であり、聖母マリアの花であり、イスラム世界では赤バラがアラーを、白バラがムハンマドを表わします。クレオパトラや皇帝ネロのバラ好きも有名です。

今日、世界には原種から園芸種まで何十万種ものバラがあると言われ、観賞用だけでなく、香水原料、食用・飲用にされるほか、栽培すること自体が高尚な趣味としても認識されていますが、その隆盛の契機となったのは19世紀中に進んだ各地の原種研究と人工授粉による育種・改良技術の確立でした。そしてその原動力となったのは、ナポレオン・ボナパルトの妃ジョゼフィーヌでした。

ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ(1763~1814)は6歳年下のナポレオンに見初められた当時、32歳の離婚経験者ながら社交界で人気の存在でした。しかし皇妃となった後も華やかな生活が好きで恋多き彼女は、皇嗣のできないこともあって離婚され、パリ近郊のマルメゾン城で暮らすようになります。そしてここを根拠に、植物画家のピエール・ジョセフ・ルドゥーテや園芸家のアンドレ・デュポンなどを抱えて世界中のバラの収集と栽培、記録の整理を行い、「現代バラの母」となったのです。

岩田の《薔薇の貴婦人》はジョゼフィーヌを描いています。首の長い石膏像の姿をしたジョゼフィーヌは、解放と陶酔の酒神バッカスのようにぶどうの房と葉で巻き髪を飾っています。後ろの壁に留められたトランプのカードは、バラを手にしたQ(D)です。そして華やかな賑わいを演出する金管楽器。しかし背丈の高い燭台のろうそくは消え、その盛衰を示し、そしてバラ一輪だけが今に残って咲いているようです。


《薔薇の貴婦人》 1967
《薔薇の貴婦人》 1967年


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