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岩田榮吉の作品

 作品点描(19)
  《シバの女王》


旧約聖書「列王記上・10章」に、シバの女王は登場します。絶大な権力を世界に及ぼし賢者の名声高いイスラエルのソロモン王を訪ねるため、瑪瑙・エメラルド・琥珀などあまたの宝物や最高級の乳香・白檀などを携え、死と渇きの砂漠をいくつも越えて女王はやってきます。その目的は王の知恵を授かること。その問いに対して直ちにそして完全な答えを得た女王は、畏敬を持って財宝を献上したということです。

岩田の《シバの女王》はトロンプルイユ的作品です。破りとられたキャンバスに描かれているシバの女王、トランプのソロモン王、時計と青い蝶は「今日に続く」「ヨーロッパ魂」でしょうか、それぞれがピンで壁面にとめられているように見えます。しかしこれはトロンプルイユではありません。額縁に収められ、画面はそこで終わっていて、現実の空間につながっていないからです。岩田はこうした手法で、シバの女王が史実上の人物ではないと一般に考えられていることを表しています。

《スペインの夜》、《ルイブラス》、《近東への想い》、《シシリア物語》などヨーロッパをテーマにした岩田の一連の作品の締めくくりとしてこの《シバの女王》は位置づけられます。「大航海時代」前夜まで中東や中国の後塵を拝していたヨーロッパですが、中東や中国では珍奇な品にすぎなかった羅針盤・紙・印刷・時計や、一部の特別な人だけのものであった医学・数学・天文学などの知識を、広く様々に結びつけ、実際の用に供し試行を繰り返し発展させたことは、まさにヨーロッパの力の源泉となっていったのです。

古代ギリシアからの知の伝統に基づく世界との交流、ときに放縦・逸脱はあっても、世界に地歩を築いた交易こそがヨーロッパとその文化の基盤となったことは間違いありません。


《シバの女王》 1978年
《シバの女王》 1978年


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