岩田に《キアンチ》と題する作品が2点(画集No.38とNo.63)あります。キアンチ=Chiantiは日本でも「キャンティ」として広く知られているイタリア産ワインです。一目見ればそれとわかる、トウモロコシ皮藁製の菰を着けた下膨れ型の瓶が長年使われてきました(近年はあまり見かけなくなりましたが)。奢侈品というよりは日用品だったこのワインが、イタリア以外でも広く知られるようになったのは映画の影響とも言われます。
1953年公開の映画「ローマの休日」は女優オードリー・ヘップバーンの出世作ですが、その演じる某国王女とアメリカ人男性の大衆紙記者(グレゴリー・ペック)がおとぎ話のような恋に落ち、波乱万丈の末にたどり着いた彼の滞在先で一息つく場面にそれが出てきます。ありあわせのコップに無造作に注がれ勧められたキャンティ、王女にとってはおそらく口にしたことのないものだったでしょうが、二人の仲は一段と和みます。
映画好きの岩田のこと、「ローマの休日」も見ていた可能性は高いのですが、2点の《キアンチ》に庶民派ワインの代表として菰かぶりの瓶を取上げました。画集No.38の1970年作の方は、仮装用のマスクやとんがり帽子、太鼓のバチなどと、マッチ箱・マッチがあしらわれ、それらの示唆する束の間のお祭り騒ぎの中心にあったのは、克明に描写された瓶とグラス1杯のキャンティ…という構成です。
《キアンチ》 1970年 (画集No.38)
もう1点の画集No.63・1975年作も、あしらわれたモチーフや配置された壁龕に若干の違いはあるものの、吊るされた魔よけのニンニクも加わって、庶民の一時の楽しみにキャンティがある点で同工です。それにしても2作に登場するグラスはいずれもワイングラスではないようです。ありあわせのもので済ませたかに見えるのは、「ローマの休日」で二人がキャンティを飲んだコップの影響でしょうか。
《キアンチ》 1975年 (画集No.63)