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岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  時計と時(その1 描かれた時計)


時計は岩田の作品に見えるオブジェの中でももっとも頻度の高いものです。「岩田榮吉画集」掲載の油彩作品は117点ありますが、そのうち31点、つまり4点のうち1点には何らかの時計が登場しています。しかし登場する時計は三種類のみ、頻度の高い順に「ゼンマイ式懐中時計」、「砂時計」、「携帯型日時計」だけです。

ゼンマイ式の時計が発明されたのは15世紀の後半、既に13世紀後半には教会などの鐘を鳴らすために錘を動力とする機械式時計が考案されていましたが、精度は低く、また到底持ち運びできるものでもありませんでした。ゼンマイ動力、さらに振子と同様に規則的な往復回転動力となる「テンプゼンマイ」、歯車の回転を定期的に進める「脱進機」が発明されて、精度と耐摩耗性の向上・小型化が進み、17世紀後半には携帯可能な実用時計が製造されるようになります。さらに稀少なぜいたく品の域をこえて相当量が生産されるようになるのは18世紀後半から、農村よりは都市部で、旧教国よりは新教国で、従来勢力よりは新興勢力に支持されたようです。

砂時計の起源については諸説あるようですが、14世紀頃から機械式時計が実用化され普及するまでの時期においては、船の航行距離計算上必須のものであったことをはじめ、その他の用途にも広く使われました。一方、日時計の起源は紀元前4000年頃のエジプトにまで遡り、屋外据付け型のものが多数でしたが、岩田の作品に登場するような磁針と補正目盛のついた精度の高い携帯型日時計がつくられるようになったのは15世紀になってからのことでした。つまり、15~18世紀頃までのヨーロッパでは、機械式の時計、砂時計、日時計がそれぞれなくてはならないものとして併用されていたのです。

時計が登場する岩田の作品のほとんどは「ゼンマイ式懐中時計」、「砂時計」、「携帯型日時計」の三種類のうちのいずれか一種類だけが描かれ、二種類描かれているのは《時の小箱(トロンプルイユ)》(画集No.61)と《鏡と時計》(画集No.72)の二作のみ、三種類描かれているのは《三つの時》(画集No.107)のみ、つまり複数種類の時計が描かれているのは「時」そのものがテーマになっている作品のみです。岩田が時計と時に込めた意味はなかなか重層的です。



《三つの時》1980年の中の 「ゼンマイ式懐中時計」、「砂時計」、「日時計」

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