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岩田榮吉の作品

 作品点描
  岩田トロンプルイユの発想源


1970年、岩田は日本での第1回個展を開きますが、その準備関係者は「トロンプルイユ」の日本語訳と説明をめぐって頭を悩ませていました。当時の日本ではほとんど誰もが知らなかったのです。そうした質問に答える岩田の書簡が残っています(1970年8月25日付、姉宛)。結論は、あえて日本語訳せず、トロンプルイユのままにしておく方がよいとのことですが、その記述から岩田のトロンプルイユに対する見解がよくわかります。

トロンプルイユの起源に関しては、大プリニウスの『博物誌』が伝える古代ギリシアの画家ゼクシウスとパラシオスが絵の迫真性を競う逸話や、ルネサンス期の建築物内部の天井・壁龕・円柱などに描かれた「その向こうの空間」が多く紹介されています。しかし岩田によればトロンプルイユは「14世紀の頃から発生した室内の一部を装飾する絵の一形式で、描かれた絵の場合も寄木細工の場合」もある…としています。

その実例としてあげられている中に、フラ・ジョヴァンニ・ダ・ヴェローナ(1491~99)の作品があります。画像はいずれもヴェローナ(イタリア)のサンタマリア・イン・オルガノ教会にあるもので、上は聖歌隊席にある譜面台、下は聖具室に設えられた調度品です。


聖歌隊席にある譜面台


聖具室に設えられた調度品


岩田は「寄木細工」と書きましたが、「タルシア」(「インタルシア」、「インタルジオ」とも)と称される木象嵌で、所定の形に切出した木の薄板を地板のくぼみに嵌めて絵柄や模様を表現する、漆器の螺鈿や金工象嵌と同類の技法です。14世紀後半ごろのイタリアでは、貴族や大商人が自宅内に私的な小書斎(ストゥディオ―ロ)を持つことが流行し、その壁面に調度品を模したタルシア画を配置することが特徴であったともいわれます。

フラ・ジョヴァンニの透視遠近法を取り入れたタルシア作品が、岩田に大きなヒントを与えたことは間違いありません。戸棚の中は聖具であふれ神の世界につながる小宇宙です。木象嵌は木本来の色、質感をそのまま生かすモノクローム的な平面表現ですから、モチーフの写実的再現をもくろむものではなく、「目をだます」ことなどありませんが、そのことがかえって機知に富む実体感を演出しているようです。

岩田はこうしたことを一目で見抜いたわけではなく、ムッシュ・トロンプルイユともいえるアンリ・カディウと出会い、トロンプルイユ取組みを勧められ、考えを巡らせるうちに思い起こしたものでしょう。岩田のトロンプルイユの発想源がこのようなタルシアの調度にあるとすれば、「額縁に入れないで、絵自体でオブジェのように完結しているもの」こそがトロンプルイユという岩田の考えにも納得がいくのではないでしょうか。


展覧会「トロンプルイユの現在2021」(横浜本牧絵画館2021年)に展示された、岩田榮吉《日本人形(トロンプルイユ)》と《アルルカン(トロンプルイユ)》
展覧会「トロンプルイユの現在2021」(横浜本牧絵画館2021年)に展示された
岩田榮吉《日本人形(トロンプルイユ)》と《アルルカン(トロンプルイユ)》



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