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岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  1979年作《ピエロ》その2


岩田の1979年作《ピエロ》は、若い時分から描き継いだ「自画像」のひとつの到達点ともいえる作品です。常々モチーフの選択には気を配り、発想の緊張度を高めて余計なものは一切排除し、密度の高い描写で作画する岩田絵画の特徴が凝縮されています。そしてもうひとつ、岩田絵画の一貫した特徴であるシンプルな画面構成を見逃すことはできません。



《ピエロ》 1979年 (補助線は本稿筆者による)


補助線からわかるように、この作品は上辺と下辺をそれぞれ一辺とする正方形2つと、その対角線、及び画面を3分割する縦線に沿って構成されています。人形の顔が中央に置かれ、人形の腰、人形の頭上の棚、棚から吊下げられた時計は、いずれも補助線上に配置され、さらに、人形・コーヒー挽き・パイプのメインモチーフによる三角構図が重ね合わされています。左上から柔らかく射し込む光に、セピア基調の色遣い、トロンプルイユ的な遠近表現が、ヨーロッパ絵画の伝統を踏まえた落ち着きと深みのある「岩田調」を醸し出しています。

例えば分割線を引き、また例えば部分の比率を計算することが不可欠という訳ではないでしょうが、古今評価の高い作品には結果として共通する画面構成上の定石があり、それをどう考えどう取入れるかは制作上たいへん重要な問題です。岩田にとって、目の前の実物実景をそのまま写し取ることは「写実」に直結しません。構想を煮詰め構成についての試行を重ねる中で、はじめて細密な描写が活かされるのです。

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