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岩田榮吉の世界

岩田榮吉の作品

 作品点描
  《裸の人形》



人形を描くにしても、裸だったり壊れていたりしてはいけません。…有力な画商にこう言われて、岩田は大層不機嫌だったというエピソードがあります。絵を売る立場からすると、売れない絵は、一に著名でない作者の抽象画、二に恐怖を感じる作品、三に(美人・美男ではない)一般の人を描いた絵だとも聞きますが、壊れた裸の人形を描いた絵は「二」にあたるとの見立てだったのでしょう。

確かに人形というモチーフには、他のモチーフにはない特徴があります。それは人形がモノでありながら人の形をしていることに由来します。もともとは「美しく」、あるいは「可愛く」、時には名前も付けられて愛されていたであろう人形が、忘れられ見捨てられて衣服を失い、あるいは傷を負ったとなれば、ただ哀れというだけでなく、深い恨みを抱えて思いがけない厄災をもたらすのではないかとの危惧さえ抱かせます。

しかし岩田の《裸の人形》(1970年 画集No.22)を見ると、この人形はそもそも「忘れられ見捨てられて」そこにいるのではありません。それは、画面右上にピンだけを残して壁から落ちたトランプのキング、破れ汚れたヨーロッパの地図、隅に追いやられた立方体や三角定規が表す理性や英知等々周囲に配されたものの様子から明らかなのではないでしょうか。描かれているのは、威嚇、収奪、破壊、戦争…自ら造りだした厄災によって様々なものを失い、傷を負った人間そのものなのです。岩田の不機嫌はもっともなことと言わなければなりません。



《裸の人形》 1970年 (画集No.22 愛知県立芸術大学芸術資料館所蔵)


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