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岩田榮吉の作品

 作品点描
  《たんす(トロンプルイユ)》


《たんす(トロンプルイユ)》は岩田のトロンプルイユ作品の中でも代表作の一つです。人形、ガラス球、楽譜、装飾本、天秤、地図など愛蔵のモチーフで、年来の画題である内面世界を描き出しているのですが、この作品でもっとも注目すべきは、トロンプルイユの特性に関わる意欲的な取り組みです。

トロンプルイユとは、あたかも観覧者のいる現実空間とつながっているかのように、迫真的な質感描写と遠近表現を駆使して創出される絵画ですが、その多くは、観覧者のいる現実空間の向こう側に広がる空間を表現します。例えば、壁面の向こうに続く回廊、窓から見える屋外の景観、収納棚に置かれた様々なもの…等々。このような「向こうに広がる」空間を「凹空間」と名付けるとすると、本作はその逆の「凸空間」を表現しようとするものです。

「凸空間」は観覧者のいる現実空間の一部に他なりません。トロンプルイユには現実空間と「つながって」いるかのような表現が必須ですが、凸空間の表現はさらに進んで現実空間に「突出し溶け込む」程でなければなりません。したがって、例えば、テーブルなどに置かれたカードの隅や地図の一部がこちらにはみ出している程度の小さな凸空間はともかく、たんすの引出し一段分と人形のような大きな凸空間を表現することは格段の困難が伴います。

トロンプルイユの過去の作例を見ても、凸空間作例の典型である「状差し」のように紙片などの小物を扱っているものはともかく、壁に吊るされた鴨猟の獲物などのやや大きいものはなかなか難しいことがわかります。岩田もこの作品に先立って、《人形と引き出し(トロンプルイユ)》(作品点描〜音楽世界との関わり(その3) 参照)で「小手調べ」を行っています。


《たんす(トロンプルイユ)》 1977年 国立国際美術館蔵
《たんす(トロンプルイユ)》 1977年 国立国際美術館蔵


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